最近午前中がないのだ。どこへいったのか、私の午前中は。3分の2は、7時間前に移動している。陽の光のもとで生産的な研究活動などに有効利用されるべき時間は、間接照明に変えてお茶を淹れて眠くなるまで本を読み続けるという長すぎる就眠儀式に有効利用されている。9分の2は、避けがたい化学反応により睡眠時間に充てられる。残りは、失われた午前中への哀悼に充てられる。
 一発奮起して朝日を浴びる決心のつかぬままに一週間が過ぎた今日、何かが狂い始めていることに気付いた。いい加減フツフツ辞典を買おうとルネに寄ったのだが、目当ての品が見付からず、まあ暇もあるしジュンク堂に出向こうと思う。その際に、四畳半神話大系森見登美彦四畳半神話大系』に目を留めて替わりに買おうかと迷うが、街で新たに物欲を刺激された際に、1500円の出費を後悔することになれば自分にも本にも後味が悪いと思い、やめておいた。
 ジュンク堂では、フツフツ辞典はあったが求めるものではなかった。替わりに仏語の手紙用例集を見つけて惹かれる。しかし、手紙用例集なら、ルネで5%引きで入手できるかと考え、北へ再び戻る。ルネには用例集はなかった。これは仕方がない。『四畳半神話大系』だけでも、と思い、小説の棚を見る。しかし、なんと、黄色い背表紙は消えていた。ほんの二時間、南に遊んでいた間に奇特な京大生に買われていったのだ。何と言うこと!私はこの度重なるめぐり合わせの悪さと空費された時間を嘆いて右下に視線を落とした。すると、二段ほど下に、わが心の希求してやまぬ黄色い背表紙があるではないか。ああよかった、お前は待ってくれたのね!私は手を伸ばして本を引き抜いた。妙に、本棚が詰まっていて取り出しにくい。あれ、この感じは・・。そして、思い出した。この本が他の誰かに買われることを恐れて、他の棚にこっそり移動させたのが、二時間前の私に他ならないことを。
 やはり昼ごはん無しでは現実への集中を持続させることは不可能である。明日っから、早起きしよう。