そのとき手帳を持っていなかったので、絶対なくならないと思った岩波文庫魔の山(上)に書いてもらったアドレスが山ごと行方不明、まいった。日本語の本読みたいよみたいと言ってるわりに不思議なほど読む気にならないからすっかり忘れてたのだ。
 町田康の『きれぎれ』
 どかすかなだれこんでくる言葉のひとつひとつの語ることが非常に気持ち悪いんだけど、でもこのごりごりと文章を読んでいることそのものが嬉しくってしかたない。喚起するイメージの以前に文字自体が色をもって飛び跳ねているような、いや飛び跳ねているというよりは何かしら。渦巻き、蛆虫、牛あたま。
 アウェイの方がいいなどと豪語したこともあるが、ただ期待に応えるとか守るとかが不得手なだけで初見や逆境に強いなどということはないから実際にはいいとこなしだ。撤回して余所者なのに甘えずに精進のこと。
 トーマスはトランクの中に居りました。