『ナルニア』でどの巻が一番好きだったか、と訊かれたら、『朝びらき丸東の海へ』か『馬と少年』で迷うことになる。「朝びらき丸」は、「のうなしあんよ」の独走だが*1、「馬と少年」の、オスマントルコを下敷きにしたらしいカロールメンの風俗習慣の面白おかしい描写や、タシバーンの豪邸に現れる氷菓子の類も魅惑的だった。
馬と少年 (カラー版 ナルニア国物語 5)
 このシリーズは、細かなエピソードのユーモア溢れる描写が魅力なのだけど、お説教が多少煩いのが玉にキズ。でも、「馬と少年」の中で、今考えてみても、影響の大きかった教訓らしきものが二つある。
 その一つが、よい行いをした者は、その報いとして、より困難でより立派な使命を果たさなければならない、ということ*2
 というのもね、世の中どうにも報われないことって多すぎるように思う。私はかなり図々しいから、ちゃっかり美味しいところだって頂けてるに違いないけど、周りの人間をみてても、上手くいかないもんだなーと思うことが多い。それで、前もペイバック出来ないからペイフォワードなんだよねえ、という話をしていた。私たちが周りから与えられているもの、与えてもらってきたものを、能力的にも時間のタイミングの問題ででも、とても返しきれないから、せめて相手を変えて返すのだと考えようと。
 それでも、いつでもそんな清く正しく美しい考え方が出来るはずもなく、そんなときには不条理に魂を売る。ビルに飛行機が飛び込み、パンツは宙を舞い、カツ丼はさらにさらに重々しく運ばれてゆく。いいことがいいことで返ってくるなんて、そもそもどこへだって書かれちゃいない。
 前述の教訓一は、そんな不条理の中の一条の希望だ。そもそも見返りなんて考える必要なんてない。今自分が、そこから何か視野を拡げ自分を豊かにすることが出来ていたらいい。他人との比較ではなく、与えるも与えられるも区別なく、自分自身として、絶対的に充実を増していて、誰よりも幸せであればいい。ペイフォワードより難しいような簡単なような。
 私を助けてくれる皆様が私の様に狭量でなくって穏やかでいてくださることに感謝しつつ。。。いつも何があっても、穏やかで、確かで、幸せを与えることに幸せを感じていられたらいいのだけど。

*1:映画はあまり評判がよくないけれど、のうなしあんよのために、三作目だけは観てみたいようにも思う。

*2:ライオンに襲われたアラビスを命がけで助けたシャスタが、隣国まで夜通し走って危険を知らせる任務を負う場面で出てくる。ちなみに、もう一つはアーケン国国王がシャスタに向かって言う、「自分より弱いものを罵ってはいけない。――自分より強いものならいいが」という言葉。自分より立場や年齢や能力において劣る人の悪口を言うのが卑怯なことである。そしてそれ以上に、私の場合「牙は上に向かって剥け」風に解釈されている節がある。最近牙をむきゃあいいってもんじゃないのはわかってきたけど、わかってるだけではなかなか改善されんのよね