天使と悪魔 コレクターズ・エディション [DVD]
 『天使と悪魔』を図書館のメディアコモンで西洋美術の仲間と観賞いたしました。『ダ・ヴィンチ・コード』よりもずっと話がすっきりとまとまっていて*1、暗闇のプチローマ観光案内といった趣でヴァチカンとローマの名所が次々と陰謀の舞台になってゆくので楽しめた。後継者決めに集まった赤いおべべの枢機卿のおじいちゃんたちが群れて、絢爛たる小道具を使って複雑な儀式を緩慢とした動きで進める図もなかなかよろしい。カメルレンゴの大活躍も、ちゃんとわかりやすい伏線が引かれていて納得できる。
 不満が残るとしたら、謎が案外とどれも簡単なこと。今更ながらネタばれもなんですし黙りますが、色々突っ込みどころがあって笑えた。わざわざハーヴァードから図像学(ではないのか、シンボルっていってた?)の権威を連れてくるようなことだろうか?
 そして、ラングトン教授の胡散臭さよ。キリスト教の図像やってて何故ラテン語が読めないのか(アーカイヴの閲覧許可もらえるまでに七年間もあったはずなのに!)。ていうかイタリア語も駄目なのだ。自分を見張ってるヴァチカン方のおまわりさんに訳してもらっちゃうのだ。ちなみに、ヴァチカンでもローマでも誰が相手でも英語なのだ。そして、ローマの地理もあやふや(ほかでもないローマなのだから有名な作品のある教会くらいは・・・)。うーん。彼のやっている知的仕事に不信感が芽生えてきたころ、左腕の腕時計が目に入る。何の変哲もない革ベルト、でも白い文字盤には彼をイメージの世界に導いたミッキーマウスだ。これね、美術か演出か何かに少しでも美術史家の怖さを知ってる人がいたら、もう少しあからさまにキッチュなプラスチック製みたいなのを着けさせたんじゃないかと思うのだけど。マールもパノフスキーもヴァールブルグも昔の人とはいえ、美術史家(あるいはアメリカ人の美術史家)相当甘く見られてますぞ。
 そうそう、「反物質」というのはちょっと素敵。

*1:基本的に一晩のうちに決着がつき(時)、舞台はローマを離れず(場)、ある一つの陰謀の阻止が目的となる(筋)。このお蔭でわたしたちはずいぶんと謎解きと人間模様と美術セットの観賞に集中できる。すごく広い意味の解釈で、古典劇の三統一(三一致)の法則というのはそれなりに説得力のあるものなのだなーと実感した。