異文化を語る人間は二種類存在する。
 食べ物へのこだわりの有る者とない者である。
 …というと、「食べるために生きるか、生きるために食べるか」の二項対立と同じことで、畢竟異文化云々以前の「人間には二種類ある」みたいな大きな話になりそうだが、例えば旅行の醍醐味はどこにあるか?旅から帰ってきたあとブログにアップするのは何の話か?と考えれば、私なんて食べ物騒動なしには旅の魅力は半減する気がする。ひどい目にあった記憶も含めてだ。

ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫)

ガセネッタ&シモネッタ (文春文庫)

 この本の章立ては食前酒に始まりデザートに珈琲、食後酒でしめるフルコース仕様。なのに食べ物の話はほっとんど出てこない。『パンツの面目ふんどしの沽券』の時といい、下のほうのお話の方が好きな方?なあんてことはなく(多分)、書いてありました、口は同時に二つの用途には使えない([深謀遠慮か浅知恵か])。最初っから最後までしゃべり話とあれば、食べている暇などないのである。それで目次=メニューっていうわけ。
 だから中身は、かなりがっつり通訳の裏話、とはいえ、免許の更新で行列しながら読んでても*1何度も声出して笑ってしまうポイント目白押しである(立ち読みするならお薦めは[なぜ、よりによって外出時に][モテる作家は短い!][蚤を殺すのに猫まで殺す愚]etc..)。
 真面目に凄いな―とおもったのは、「利潤追求度外視の計画経済の面目躍如」、世界各国の言語網羅を目指すかのように、ソ連では、マイナー言語も含めた言語の専門家の人材育成を凄い体系的に辞書やら教科書やらからちゃんとやっていたという話。
 「日本語の場合を例にとるならば、万葉集から源氏、大宝律令に至るまで翻訳してしまっていたのだから、その奥行きたるや目も眩むほどで、イデオロギーの流布やKGBによる盗聴などというプラグマチズム(?)をはるかに超えていた」([同時通訳の故郷?])。
大宝律令!本書刊行時のBBCで五十四カ国語の放送が行われているという数字が挙げられたあと、それに比較して最盛期のモスクワ放送は、八十五カ国語で放送されていたのだという。なんだかやっぱり謎のロシアは面白そう!

*1:免許更新には文庫本二冊くらい必携でしょう。屋外に立って並びながら読むのも楽ではないけど、変に話しかけられずに済むし、同じ方向を向いた人の群れがお互いに話もせずにひたすら並んで待っているという異様な状況から多少なりとも逃避出来る。