太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

 今更だけど、去年の末くらいに研究室にちょっとした森見登美彦再考の動きがあった。そのときに回った「太陽の塔」を読んだ人の幾人かから、この「水尾さん」という女性をどう思うかと聞かれたのだけど。・・・実はほとんど覚えていない。
 「邪眼」のほうはなんだか強い印象を残しているのだが、水尾さんはオートロックのマンションに住んでいて、水曜だったか忘れたが週に一日五限のない日があるのでルネで一時間立ち読みを行い、プレゼントに電動招き猫をもらうと無残にお蔵入りさせてしまう女性で、主人公のほかにも法学部のやはりちょっと病んだ生意気な学生に勘違いで付きまとわれているらしく、ゴキブリキューブ戦争の発端となったが傾国の美女というほどではなく、太陽の塔に異様な関心を示したりしていたはずだが、最後のほうは違う女学生だったかもしれない。
 こんなことしか覚えていないものだから、「水尾さん反対!」「いや、水尾さんは私だ!」なんて白熱した議論のなかでは、私はまるで本を読んでいない人みたいな意見しかさしはさむことが出来なかったのである。折角日常的な風景をフィールドとした小説なのだから、我と我が身を振り返って読み込むのが本来の姿というもの、だったのだろうか。やっぱり感想文は苦手だ。こんなブログとか書いてるけどまともなレヴューも書けない。
 白川通りの方に住むようになって、通学路が断然魅力的になった。中でも、東鞍馬口通りと東大路を斜めにカットする叡電線路沿い晴れた午後と、白川通りに並行するように走る疎水の朝夕は、自転車で速く通り過ぎてしまうのが惜しいくらいだ。いつかまた映画を撮るようなことがあればどちらかはぜひきっと使う。あの辺で学生が映画を撮っているというのは、ちょっといい必然というか、空気のなかにそういう感じがあるというか、とにかく割りと素敵な界隈なのだ。そんな私の妄想の中には、清順風を目指してさぞかししゃなりっとした美女みたいなのを引っ張ってきたかしらないが、素敵さの欠片もないあの連中もチョコチョコと登場してはあの辺りに三脚を立てたりしている。素敵さを理解しつつ愛情を残しつつ(ではないかもしれないけれど)それをこんなに愛している私が思わずにやっとしてしまうようなやり方で、そんな半端な素敵さをまっさかさまに瓦解させる阿呆らしさでもってこの場所を書くから太陽の塔は好き、と、学部の時分に読んだ記憶をたどればこんな感じ。一緒に再考すればよかったかもな。