フランス演劇の殿堂、コメディーフランセーズに初挑戦!です。上演一時間前に並んで買うpetit bureau-visiblite reduit(安いけどちょっと見えにくい席)だとなんと五ユーロ。映画より安い。それでもきらびやかな気分は満喫できます。

ちなみにどんだけ見えないかというと、左の写真の左下の白いのが舞台なんだけど、ちょこっと半円形に出っ張ってるところがちょうど舞台の真中。つまり、三分の一以上見えん。でも私の席は幸い通路沿いだったので、立って横っちょに出てました。
 本日の演目はラシーヌの『アンドロマック』、修論のときに一回ちゃんと読んだことがあったから挑戦したんだけど、読んだことがあってよかった!この種の古典劇、しかも悲劇に予習なしで挑むのは、筋を知らずに能を観るのと同じくらい危険だと思う。私が能程度には分かったってことはもっとフランス語分かるひとなら抜き打ちでもいけるのかな?隣のフランス人は寝てたけど。他を知らないので何とも言えないが、今回は特に身振り・舞台装置なども非常に簡素で、本当に言葉で「聞かせる」という感じだった。ただ聞かせ方は凄く練られていて、登場人物によって話す言葉のメロディーが全然違うので、聞いてるだけでもどういう立場の誰が話しているのかが分かる。総じて身分の高い人ほど鼻母音の利いた抑揚のあるゆったりと荘重な話し方をする。試しに今度パン屋で「パァーン・オ・レザァーンが欲しいーんですけどぉー」とか言ってみようかな。
 さて舞台はトロヤ戦争終結後、ギリシャ軍占領下の元トロヤ、アキレウスの息子ピリュスが治めるエピール。ピリュスには世界一の美女ヘレネの娘のエルミオーヌという婚約者がいるにも関わらず、人質として囚われているトロヤの英雄エクトールの妻で子連れのアンドロマックに恋をしている。エルミオーヌは当然、わたくしの美貌を前にして何よ?みたいにして面白くないんだけど、そんなときに、トロヤ女アンドロマックにかまけているピリュスを諌めにくるギリシャ大使オレストはエルミオーヌに参っちゃってて…という、四角関係?なのかな、政治情勢が絡んで相関関係はかなり複雑。
 しかしながら、私は細かいところ聞き取れなかったのもあって、ひたすら、年増女にライヴァル心を燃やすエルミオーヌと、彼女に尽くすオレストの報われぬ恋の物語としてみちゃったな。身振りが控えめな演出だったとさっき書いたけど、その動きの少ない、抽象的で幾何学的な人物配置の中で、たまに男女が触れられるくらい近くによるとそのインパクトは強烈。オレストは黒髪のすらっとした俳優さんだったんだけど、本当に哀れで、ずっとエルミオーヌが、好きだったのに、やっと彼女の方から声がかかったと思ったら、自分の上司であるピリュスを殺せと言われ、それでも愛ゆえに祖国を裏切ってピリュスを殺したことを報告したら、エルミオーヌは相変わらずピリュスを愛していたことが発覚、物凄いひどい奴みたいに言われるだけでなく自害されてしまう。もうこれは狂うしかないよね。それでも恋なんかしちゃった阿呆なきみに私の最後の拍手を捧ぐ。
 とにかく、パリは恵まれてるので、もっと色々スペクタクルみよーっと思ったのでした。