雪の舞う金曜、パリの東の果ての*1ヴァンセンヌの森の中のカルトゥシュリーという何なんだろう?牧場みたいな場末のサーカスみたいな中のテアトル・ド・ラクアリウムという劇場にて、フランソワ・ランシヤック(francois rancillac)演出のユゴーの『le roi s'amuse』を観た。
 地下鉄の駅からスクールバスみたいなシャトルバスで森の中に入っていく時から異世界感(なんじゃそら)抜群で、劇場は倉庫のような銀色のべこべこで出来た箱。待合のホールはふっかふかの赤絨毯にドレスで行っちゃってもいいくらい惜しみない光量の照明が降り注ぎ、温かくてとても気持ちいい。時間になると待合から一遍に客席に案内される。という感じで、コメディーフランセーズとは全く別の仕方で、劇場にいくドキドキを増幅させる条件を満たしている。
 お話は、フランソワ一世が暴虐ではなく歓楽の限りを尽くすのに王の道化の娘が犠牲になってしまうという救いない話で、特に前半、王のお取り巻きの美形男子たち(これは見ごたえあり)が、大まかに言って現代の女性のパッド入りブラの要領でフランソワ一世の時代の男性たちがぶら下げてらしたブラゲットのみ真っ赤なのを現代風のブリンブリンなお衣装にぶら下げてだべってるあたりただの下品な出し物だったらどうしようと思ったのだが、道化が登場すると彼の言葉彼の動きがあんまりに凄いので、完全に引き込まれてしまって、そのあたりから話も動きだして分かるようになってくるので、後は一気だった。可動式の鏡の対立てとミラーボールで区切った舞台を上手に使った、役者たちの「身体」の動きと存在感に魅せられる舞台だった。1832年当時はあっというまに検閲で禁止されたという風刺の効いたせりふ回しは、逆に内輪受けな感じ。
 今日は、ワインの見本市。午前中に無料で30分くらいの「デギュスタシオン入門講座」というのを受けて、色を見て(黄金色?レモン色?ルビー?栗色?紫?)、香りを嗅いで(フルーツ?どんな?木?スパイス?)、味わって、口腔内で香りをもう一度聞く、という一連の流れと心得を教わる。ワインの言葉にこちらがちゃんと耳を傾けてあげること、それをするのとしないのでは、気を使い使い不機嫌そうに沈黙した客人をもてなすのと、陽気で楽しい人が仲間に入ってくれるのと同じぐらい、全然違ってくるんですって!これは大変、とそのあとは、色々な出店を回っては、色、香り、味わい、香り、と区別して試飲して感想を言葉で述べる訓練を自主的に実施。(ちなみに試飲はタダ、気に入ったのは一本から買える。大口で買いに来る業者とかレストラン関係の人とか個人とかが多いみたいで、買わないでも嫌な顔せず、ワイン入門ですとかいって一生懸命味わっていると非常に気持よく対応してくれる)すると、感想って、これはちょっとお利口な感じ、とか、見た目は派手にしてるけど案外小さくまとまっちゃった奴、とか好みがうるさそうとか、若いお嬢さんみたい、とか、人間性みたいになってきて、地方ごとの大きな違いや、同じ畑で年の違うワインの驚くような差が分かってくる。少なくともこれで二度目のフランスをボルドーブルゴーニュの違いが分からないままに過ごすような勿体ないことにはならないわ!

*1:この、実際の場所が東か西かというのを、私は南北ほど直感的には分からないので、常に、一度地図上で思い描いてみて、その後その地図に北海道の地図を重ねて根室・釧路のある方向なら東ね、ということをやることになる。京都だと東山から上る太陽の情景が北海道地図上の納沙布岬の代りをしてくれるんだけど、パリの私の生息地には山もないし、道路は碁盤の目状じゃないし、たぶん東西南北とは別種の方向感覚を導入するべきなんだろうと思います