むやみにケバブとフライドポテトが食べたくなったので帰宅途中に裏手のケバブ屋に寄った。最近時間的に余裕のある生活だったからここにくるのは二カ月ぶりくらいだ。
 こんばんわー、って声をかけたら、いつものお兄ちゃんが「こんばんわ、お嬢さん、最近どう?」ときて、私が口を開かないうちに「ケバブのサンドイッチとフリット、野菜全部入れてトマト多い目でマヨネーズ?」と注文内容を「復唱」。「ええ、それでお願いします」と言ったものの、うーん、覚えてもらえてるのはうれしいような、でもしばしば孤独にケバブを食べてる子みたいで複雑なような…ともあれ、これが気合い食品の威力であります。
 パリは都会だからみんな冷たいでしょう、とよく言われるけれど、実際にはそんなことはない。今住んでいる部屋があるのが、安全でほどほど活気があり、かつブルジョワ気どりと程遠い恵まれた界隈であることもあって、顔見知りの仲間意識が温かくて居心地がいい。
 働いている人より大分遅れて朝家を出ると、床屋とピザやとアフガン料理屋の御主人方が寄り合いをしていて、坂を少し下ると靴の修理屋とカフェの伯父さんたちが煙草を吸っている。買い物が無くても挨拶するこの一ブロック半くらいのエリアは、店も閉まった夜に一人で歩いていてもなんだか自分の領域という感じで安心するのだ。
 ピザ屋の店主がパリで知り合って五年前に結婚したベトナム人の奥さんとラブラブでヴァカンスに出ている間、鉢植えの水やりを担当することになり、結局毎日のようににわか雨が降るから何も仕事はしていないのだけど、基本的に流浪の民としてはこういうのって嬉しいな〜と思うのであります。