すでにお聞きおよびの方もおいでかとは存じ上げるが、大陸の寒さが本気を出して一週間が経とうとしている。私は向こう十日の天気予報が軒並み真冬日なのを見て、今月は自転車通学を断念してしまった。そんなわけで膝までの黒いコートに黒いグローブと黒いベレー帽をつけ、黒いリュックサックを背負って二シーズン目にしていい味が出てきた明るい茶の乗馬ブーツでまさに完全装備といった出で立ちでてくてく行軍するうちに幾つか気付いたことがある。一つは、ウールのスカートに厚手のタイツとブーツを合わせるとジーンズよりも数段温かいこと。座り仕事には楽でもあるので最近専らこれです。もう一つは、帽子の意外な効用である。この寒い中で風邪をひかないのは、様々な理由があるにせよ、帽子が守ってくれてるのんは疑いがない。頭から三割熱が逃げていくというのはともすると本当かもしれない。ついでに、帽子をかぶって外出していると、妙にどちらでも愛想よく対応してもらえるのはどうしたことであろうか。チョコレート屋のお兄さんとか警備員のおじちゃんとかがご機嫌なのは珍しくもないし、クロークや出納のお兄さんお姉さんやパン屋の奥さんとも概ね上手くやってるけど、スーパーのレジのお姉ちゃんに微笑みかけられると、異常事態発生の信号が鳴る。これが、一度ならともかく帽子で通学始めてから三〜四たび続いているのでなにかしら相関関係を読み取ってもいいのではないかしらと思ったり。
 それでも、流石にこれだけ冷えると空気が澄んで凍てつく空の明るい藍色は殊のほか美しいです。うっかり上を向いて深呼吸などしようものなら涙ちょちょぎれるほど咳込むこと請け合いですが。