京阪沿線にも桜がちらほらと垣間見える。早くに咲く枝垂桜の佇まいは好きだ。
 始めて本州の桜を見たときにはそのあまりのサービス過剰ッぷりに驚いたものだ。ピンク色の花だけだなんて、なんて破廉恥な・・。ところで、上の歌は、ソメイヨシノの蔓延る前のようだ。山桜か枝垂桜か、はたまた八重か。でも、あっけらかんと咲き誇るソメイヨシノにすら人を狂わす強烈な死の匂いはある。
 ソメイヨシノは、明治になって、軍隊と共に日本全国に植えられたのだと聞いた。だから、師団街道とかいう名のつく通りや近代に作られた道路や公共施設にソメイヨシノの並木は多い。散り際の美しい桜は、日本人のあるべき姿とされたのだ。学校の入学、軍隊への入隊、外地への出征・・、そこに、ソメイヨシノは咲いていた。そう考えると身震いが走る。武士の死に様が椿にたとえられていたのに比べて風に吹かれるままに流れる桜の花片はあまりに軽やかだ。死体も埋まっていよう。鬼にも会おう。奴は現に血を吸ってきたのだ。いや、好むと好まざると、人間に、吸わされてきた・・
 もっとも、私が死ぬ前にリクエストするなら菜の花かなあ。水仙もいいかも。ただっぴろいのはらに茫茫咲いているのがいい。色気がなくてごめんなさいませね。