昨日は一日フル稼働していたので、今日はのんびり。とはいっても、明日投函したい資料が出来上がっていない。冬物も仕舞いたい。日常にもどってしばらくは決まってばたばたするのだ。

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 これも引き篭もってる時読んだ本。パリ下町版もう一つの『誰も知らない』といった風情の状況設定、主人公のエキセントリックな職業(デパート品質管理部門のいけにえの山羊)もさることながら、出てくる人々(動物も)がちょっとありえない強烈な個性を振りまいてる。通俗的推理小説・冒険漫画の軽妙洒脱なパロディーで、行間に痛烈な毒舌、自嘲的、露悪的な調子を帯びたスピーディーな語り口はあまりに楽しげで、同じ背景知識を持たないわたしには、目が回って何人死んだか覚えていられなかったりする。ちっともおいしそうでないクスクスが何故か食べたくてたまらない。
贖罪

贖罪

 さて、何人死んだか忘れたといいつつ、ミステリを読むとなれば血湧き肉踊る冒険は勿論、更なる事件と被害者とを求めてやまない読者となってしまうわたしも、かつて「犯人は読者である」と言われたことがあった。どこで?それは恐ろしい種明かしになるので言えないが、読んだことのある方ならお分かりでしょう。でも、よく考えてみて。読者より犯人よりもあからさまに殺人に手を染めている存在がいるはずだ。それどころか、他人に自在に罪を犯させ、恋に溺れさせ、恵まれない幼少時代だの不治の病だのを与えられる神のような存在が。
 この小説はミステリではないし、以上のような話も出てこない。ただ、最後まで来たときに、物語を語るという行為の孕む恐ろしさに衝撃を受ける。もっとも、大戦前イギリスの地方の上流家庭の屋敷とか、モスリンのドレス、ケンブリッジから帰ってきた元フラッパーとその憧れの兄の夕べのテラスでのカクテルとか、道具立てはあくまで瀟洒。最初はね。