今日も歩いて大学に行く。トラムとの巡り会わせによっては歩くほうがはやいのだ。
 冷たくて濃い空気、音まで凍りついたよう。八時半前はまだ暁、家並みの向こうの空はぐるっと赤く染まっている。突然ひょっこり建物の合間から覗いたピュイドドームの山頂の雪に、昇ったばかりの陽の光がバラ色に反射しているのに、思わず歓声を上げてしまう。それはもう、お世辞じゃなくて本当にばら!って感じで。
 九つの太陽という名前のついた地域を抜けて大学のある中心に下る道は、片側が黒い石を積み上げた崖のようになってて、その切り通しの間から、またいきなり、黒いカテドラル、聖母被昇天教会とその隣のノートルダム・ド・ラ・ポールの高屋根が現れる。聖堂のファサードはいつも夕日を向いているけれど、薄紅色に浮かんだ後姿もお洒落。聖堂を取り巻いている町並みが、足元まで広がってきて、ちょっとちぐはぐな風景なんだけど完成された印象をもってしまってなんか悲しくなる。
 絵葉書のようでもなくて、よく知っている風景でもない。半端に記憶の混じった、彼らの街。
 変ね、昼間中にいると私達の街、と思うのだけど。あまり関係ないけど写真は勿論日中で、図書館と県庁などの間の通り。典型的なヴォルヴィックの石を使った建物が並んでいる。