ミラン・クンデラの『Identité(邦題:ほんとうの私)』だったと思う。最初の方で、主人公が、街ですれ違う男がことごとく女連れ、だけならともかくベビーカーを押しているのを見ているうちに絶望的な気分になるという一節があった。妄想の中で紆余曲折を経てどうしようもなく気が沈むのを、この確かシャンタルは、恋人に訴える。「男の人はもう私を見ても振り返らないの」
 夕方、街の中心の公園ジャルダン・ル・コックに入って、歩いてる小集団の9割方ベビーカーが含まれているのに遭遇して、このシーンをふっと思い出した。一組とすれ違うととても幸せになれるけど、会う人会う人ベビーカーを装備していると、絶望的にもなるかも。