シャセリオー(1819-1856、フランスの画家)についての研究書を読んでいたら、思いがけず気に入りの言葉に出会った。デッサンの段階で描きこまれていた男性像が、版画では削除されている、という文脈で、「元々(作品に描かれることが)予定されていた」を意味するinitialement prévu。
 フランス国鉄の構内放送がなんか好き、というのはこの一年で身に付けてしまった奇妙な性癖の一つだ。ぴんぽんぽん、という、どちらかというと不安を煽るメロディーのチャイムを聞いただけで血沸き肉踊るとまでいわずとも、にんまりとしてしまう。そこで、頻繁に登場するのが、「initialement prévu もともとの予定では」という文句なのである。
 「リヨン行き13時25分出発予定だった何号の列車は、13時55分にFホームに入ります。」「パリ発19時52分到着予定の列車は予定の時刻を15分遅れてGホームに到着します。」という感じで、実に平然とした女性の声で自動音声が放送される。最後にもちろんお詫びの言葉が入るのだが、悪びれない態度は見上げたもの。放送が平常心なのは、日常的に流されているからに違いない。自分に関係がなくても、駅にいれば聞かないことがなかった。というのは少し誇張だけど。

 そういえばこれも凄かった。イタリアはローマのテルミニ駅発の列車が、冗談みたいに悉く遅れていく。遅れた分を考慮した新しい発着時間が黄色で表示されるんだけど、これもどんどん遅れていく。気楽な学生兼貧乏旅行者にとってはちょっとやそっとの遅れじゃハプニングのうちにも入らないけど、スケジュール詰めてたらはらはらするだろうなあー。