街に出たついでにヤマハに寄ると、のだめの最新刊が平積み、というか柱のように連立していたので有り難く立ち読みさせてもらい、調子に乗って楽譜を買ってしまった。
 中学で本気で巧い友人に恵まれたおかげで、もともと真面目でなかった私のピアノは、以降一貫して楽して楽しむささやかな内面の趣味以上であったためしがない。楽しいんだけど、レパートリーが増えないから飽きてくる。飽きると新しい譜面を漁ってみるが、なかなか弾けるようにならないからまた飽きてくる、という具合。こんな感じで実家に帰ったときだけ適当に練習してたらいつか弾けたらいいな、とドビュッシーアラベスク、一番の方を、少女趣味に微苦笑しつつ音取ってると、今度は単純な和音弾いてたら気づかなかった調律サボりが耳につく気がして、早くも中断してしまった。
 そういえば『ハノン』のまえがきには凄いことが書いてあるのに最近気づいた。「努力も疲れもせずにメカニックなむずかしさを乗り越えさせ、指は驚くほどたやすく動く」ようになるとか、「毎日わずかな時間くりかえすだけで”むずかしさ”は魔法にかかったように消え去る」云々。画家を志望する者に、しきりにギリシャローマの古代彫刻のデッサンを進める17〜18世紀フランスの美術アカデミーのお偉方の仰りようにそこはかとなく似ている。その気になりやすい私のこと、幼少から読んでおけば人生変わってたかもしれないわ。この指の体操も大分古いんだろうけれど、いつになくまじめにメトロノームなんてつけて黙々と鍵盤を叩いていると、筋トレにはまってるような、ランナーズハイのような気分になるのが楽しい。