とても硬いのにしなやかで、水晶のようでありながら流れるようで、動くたびに絹は羽根のように色合いを変え、孔雀のように緑から青へ、それからまた黒へと変わった。彼女は腕を持ちあげて、たっぷりした袖を下へ垂らして大きな翼のように広げ、そのまま手を頭へまわして、編んだ髪から、男の心臓を肋骨越しに突き刺せるほど長い青銅の櫛を抜いた。外の雨と、背中に感じる火の熱と、肌に感じる絹が、彼女を自然に返した。

ガートルードとクローディアス

ガートルードとクローディアス

 ハッピーエンドがちょうど『ハムレット』の冒頭に重なる、母ガートルードの物語。アップダイクは文章がとてもうまい人と聞くので、原文で読めたらと思ってたこともあるのだけれど...。ともかく市立図書館に行けば小説の翻訳がずらりと並んでいる、というのは有難い。にほんすばらしい。必要にして十分、という感じの丁寧な描写で、本歌ハムレットまで説得力を持って立ち現われてくる。