四月の終らないうちに読んだものなど。
ジョジョの奇妙な冒険 (1) ファントムブラッド(1) (集英社文庫(コミック版))
ジョジョの奇妙な冒険』を三部まで。中学校二年生の時にこれを知らなくて男子に馬鹿にされて挑んだところ、当時この種の絵に耐性がなかって敢え無くリタイヤしていたマンガ。改めて借りて読んでみると、今まで読まずにきたことを少し後悔する爽快さだ。何しろ敵も味方も一貫してハイテンションで饒舌でポジティブで迷いがない。びっくりマークを多用して気分を盛り上げると思われたナレーションはすぐに退場し、登場人物が自分達で、複雑な技にやられたことも狡猾な罠をかけていることも、一瞬に数十語の離れ業で解説してくれる。並みいる矛盾を抑えて余りあるキャラクターの冴えと濃密なエネルギーで疾走するストーリーに拍手。
黒の過程
 ユルスナールの『黒の過程』。本を読む時って私と来たら本当に手当たり次第手に取る割に読み続けたり読み終えたりすることへの執着がなかなか湧かなくてすぐに寝かせてしまう(いいわけすると読まねばと思ってしまうのは楽しみのはずの本に対して逆に申し訳ない気持ちになるので。コンサートで寝ていたら同じ言い訳します)。でもこれはちゃんとこの前読み終わりました。
 マンガの様には読めないけれど、俗っぽさが全くなく、かといって押し付けがましいお教養な感じもしない。淡々ときれいな文章で綴られた、宗教改革と反宗教改革の只中、16世紀のヨーロッパに生きた医師であり錬金術師である男の物語。特に印象的だったのはいくつかあった痛みについて、それを人間が人間に意図して与えること、それを可能にしてしまう力について、彼が考えて問答する場面。そして最後に、外科医がその器用な手で自分の血管を切り開きながら観たもの。時代も、空間も、気質も性向も全く無関係なゼノンを、誰よりも理解したような気分になってしまう。当時の、特殊技能としての知識をもって諸国を放浪する人種が、国境なんてものもも曖昧な時にいかに広くヨーロッパ中を移動していたのか、ということも、ルネサンスの歴史の本には書いてあるけれど、改めて物語で読むと興味深い。
パコと魔法の絵本 [DVD]
 そして、『パコの魔法の絵本』を映画と舞台版のDVDで。よく出来た脚本で成功した舞台が、CGを駆使した映画に翻案された時に、両方をみたら何を感じるか――という趣旨の企画で、初めに舞台を、続いて映画を観賞した。
 一日分しか記憶を保てないパコという少女を演じる女優が、舞台ではリアルな小学校高学年位の女の子だったのに対して、映画では非現実的なハーフ顔の妖精のような超美少女で、それだけでファンタジーの世界が出来上がったしまったよう。当り前のことかもしれないけれど、舞台が、DVDを通して見ているものにとっては十分すぎて冗長に思えるほどの間合いをとって、会話の積み重ねによって少しずつ笑いをとりながら登場人物を観客に浸透させていくのに対して、映画ではそれを視覚的に構成された中に一遍に放り込んで理解したかしていないかにかかわらず納得させる*1のが実感され、結果的に、スター続出でいろんな意味でキラキラの映画の方になんだか物足りない印象をもった。まあ、CGはそれなりに楽しかったし、言ってしまえば池の淵に小さな東屋みたいのがある緑の庭でアヤカ・ウィルソンがキラキラ本を読んでたらそれだけで目にはご馳走だったんですが。

*1:こう考えると、演劇っていうのは絵よりずっと文学に近い、21世紀になってもまだ。