秘書を雇った。とはいっても、んなことが本当であるはずはない。
 どういうことかというと、まあ、私はとにかくメール返信したり、頼まれごとをちゃきっとこなしたり、スケジュールを調整したり、事務書類を期限内に抜かりなく提出し抜かりなく控えを取っておいてその上抜かりなくその控えをファイリングして散逸を防いだり、書類だけではなくあらゆるものを見つけやすいようにかつ失くさないように整理したり、といった、およそ庶務仕事と名のつく全てが苦手である。理由は何をおいてもまず、私がだらしない人間であるということに尽きるのだが、どうにも井の中を見渡すに、そもそも研究と事務仕事は一つの頭には両立しにくいもののような気がする。時間的なサイクルの長さが全然違うし、研究で寝食を忘れられない私にしてから集中が途切れては面白くない。そこで考えたのが、秘書部門の独立である。つまり、自分の中に秘書を置いておいて、その種の仕事に対しては、彼女に働いてもらうというわけ。そうすると、気の進まない仕事がたまることはなく、細々した庶務が終われば一瞬で研究用の頭に戻れるはず。
 彼女は有能なだけでなくかなり美人であり、有能で美人な女性の常としてほんのりセクシーなんだけど皆さんには私の姿しか見えないのは残念である。もっとも、きちんと日常的な事務作業をこなしているのは彼女ではなく私だと周囲の人が勘違いしてくれるのは喜ぶべきことなんだろうけど。