家から歩いて10分のムフタールの丘の劇場で『ハムレット』演出igor mendjisky。
 開演五分前に通されたら、椅子をいくつか置いただけの簡素な舞台に、すでに役者が一人思いつめたような表情で座って、こっちをにらみつけている。わちゃわちゃと人が席に着いたころ、突然照明が落ちて、おもむろに彼が立ち上がり、ごく静かに「あなたたちは何を見に来たのか?こんなに騒がしく踏みこんできて、何の見世物を期待しているのか?これから話すのは本当に恐ろしい話なのに」といって、新国王の結婚式の後半の話に突入する。見届けた悲劇の顛末を、語り伝える任を負わされたホレーシオが語り始めるという構成で、途中にもいくつかそれをにおわせる台詞が埋め込んであった。この最初の言葉は、結構怖かったんだけど、まだちょっとがやがやしていて、もっと緊張感を客席にまでいきわたらせて背筋が凍るくらい怖くあるべきなんじゃないかとおもった。ただし、例えば間をおいて静かになってから言葉を発するとか声量を上げるとかすれば、完全に「見世物」の中の世界になってしまうし、よくある演出なのだろうけれど、難しいな。
 ノンストップでリズミカルで、最小限の人数を切りまわし、照明と音楽で抑揚が付き、フランス語訳はところどころかなり口語的な表現が軽さを出し(三幕一場だったっけのオフィーリアがハムレットにいきなりサヴァ?と話しかけるのにはびっくりしたけど)、興味深い舞台だった。あとは本当に好みの問題。好みの問題というのは個人的な問題で、個人的な問題と言うことは難しい問題というわけで。私はいくつか解釈がうーむと思うところもあり、もっと笑いをとってほしいと思うところももっと重くやってほしいところもあった。ホレーシオは語り手の役も引き受けているにしては混乱しているように見えたけれど、混乱もするよねー。顔が非常に好みだった。