新学期が始まるかと思ったのにはじまらず、本を訪ねていつもと違うところに行ったりとなんだか落ち着かない日々。しかも、帰国のあいだ図らずも筆断ちしちゃったために改めて何か書こうとすると、ひとり文字の連続を打ち込むに飽き足らず人様の一瞥を頂戴する栄誉に賜ろうなどと、その心がけの如何??とか何とか変に意識しちゃって駄目なんだ。いやいや、全く考えてません、今までも、これからも、すまん!
 木曜日、友人の数学少女がドイツに旅立つというので13区のベトナム料理屋でフォーを食べ、その後その近くのビュットカイユ(Butte aux cailles)で散歩。軽い丘の斜面の小路に三階建て(日本式)くらいの背の低い建物が並び、こじんまりしたビストロやワインバーがテラスを出している。イタリー広場からほど近くなのに、建物が低ければ電灯の位置まで低く、何故か道行く人も白色人種率高めで、小さめの地方都市で、カテドラルから伸びる道のうち食べ物屋さんがある通り、といった風情。寒くなってからそぞろ歩いて温かくて甘いワインなど飲みたいな。
 金曜は、朝ソルボンヌの美術史の学生の博士論文の口頭試問があるのを小耳にはさんだので見学させてもらった。十九世紀後半の風景画についての批評についての総合的な研究とのこと、諮問の雰囲気は想像していたより優しげで、質疑で弁舌を競うという雰囲気でもない。主査の先生にもよるのかなあ。学生はフランス語使いだが、思いのほか文法事項、女性形&男性形とか表現に駄目が出ていた。昼間は若干気を引き締めて勉強し、夜はこっちの友達にお土産を届け、学生寮のパーティに顔をだす。わお凄い活動的な日だ。
 土曜はオルセー美術館の秋の特別展。Beauté, Morale et Volupté, Angleterre d'Oscer Wildeといって、こちらも19世紀後半、オスカー・ワイルドの時代のイギリスの美意識の反映された美術工芸品の展覧会である。ロンドンで期待したほどラファエル前派に出あえず、かつヴィクトリア&アルバート美術館の思わず突っ込み入れたくなる大量の工芸の山の前を時間が足りずに泣く泣く走りぬけた身には、とても幸福なセレクションであった。
 夜はパリ市の夜明かしイヴェント「Nuit Blanche白夜」。市庁舎周辺とモンマルトル周辺のかなり広範囲にわたってあちこちで、日没から夜明けまで現代アートが無料開放されているというお洒落な企画。…というのをちゃんと気にしてなかったので、急遽違う学校の友達に混ぜてもらって宵の口までで幾つか観賞した。
 地下鉄アベスの駅前広場でやっていたCompagnie Dérézoというグループのサウンドインスタレーションのパフォーマンスが面白かった。その場で演奏されるコンピュータを使った音楽を、ヘッドフォンで聞きながら広場を眺めていると、雑然とした人混みが演出された舞台のように見えてくるから不思議。中から、清掃員の恰好をした四人の役者(といっていいんだろうか)が現れて、音楽に合わせて動き、台詞をしゃべり演技をする。もっとも、掃除をしようにも多分パフォーマンスには全く関係のない酔っ払いが座り込んでいて動かなかったり、通行人と即興のやり取りもある。音楽以上に、他の雑音がヘッドフォンで遮断されていることから来る異世界の様な感覚が面白かった。
 というわけで今日は第一日曜をサボって家でのんびり勉強してたのです。