今月入ってから、肩こりとの戦いに嫌気がさした私はパリジェンヌ魂を悪魔に売ってほぼリュックサック通学である。ちなみにパリっこは皮の片肩掛けショルダーが圧倒的で、修士くらいになるとパソコン用に頭陀袋やら専用のケースが登場するが、イーストパックのリュックもやや健在だ。美術史研究所付近は、荷物が多い(図録がでかいし重い)のと、何処か拗らせている人が多いためかパンテオンの山の上よりはヴァリエーション豊富。しかして、煩悩を捨ててリュックにしてしまうと感動的に楽で、ななめがけとパソコン袋の両刀使いが如何に身体に負担をかけていたかがよくわかる。
 ところで両手が空くとついつい手放し運転の練習を始めてしまうのは人間のサガという奴だが、私のムッシュー・アムステルダムは放っておくとやや左に曲がってしまい(元カノがコミュニストだったんだろうと友達と結論…ちなみに中古の自転車をオランダ式のブレーキシステムからそう命名しました)大陸では現在でも左に寄りすぎると命に関わるのでおとなしく両手をハンドルに乗せてます。
 今日のメインのゼミは、二週間後に博士論文諮問に臨む学生が登場。彼がプレ諮問を兼ねて我々に博士論文の実際的な進め方やら論の立て方などを発表し、それに先生が補足を加える形式で行われた。新古典主義時代にローマで活躍した画家ヴィチェンツォ・カムッチーニについてのモノグラフィー研究で、出版された研究が存在しない状態から親族や各地の古文書館の所蔵する資料を調査し、作品目録と書簡集を作成したうえでエッセイをつけるまでを五年で完成させたというのだから凄い。折々に入る先生の突っ込みは、大人の事情のお話が若干大目だったものの、研究の世界に足を踏み入れたばかりの我々を鼓舞するに足るもの。最近では出色の面白い講義だった。
 知的好奇心を刺激といえば、先週金曜のレッシングについての研究会も面白かった。発表内容は言うまでもなく、その中の発表者の女性の一人が繰り出す完璧で的確なフランス語とドイツ語に心奪われた。聞いているだけで気持ちよい、と同時にすごく嫉妬した。「こんな風に書きたい」と節操なくつぶやいているわりに、「こんな風にしゃべりたい」と思ったことは数えるほどもない。多分フランス語では今回が初めてかな、あとは、自分の演出で撮った『ハムレット』のメイキングで語りまくるケネス・ブラナーの英語。日本語では多分考えたことない。こんなだからしゃべるの下手なんだな。まあ書くほうもダメダメだな。とまれかくまれ、こんなに色々と素晴らしい機会に恵まれて、うおっし頑張るぞ!とか思ってみたわけであります。終わったらおとなしくハイ研究!