大分遅れてのお知らせだが、アヌシーの国際アニメーション映画祭でお手伝いした(というよりは美味しいものを一緒に頂いた)監督さんの作品が札幌の国際短編映画祭で最優秀作曲賞を受賞されたそうだ。おめでとうございます。
 SAPPORO SHORT FEST 2012 | 第7回 札幌国際短編映画祭

 泉原昭人さんのLI.LI.TA.AL.(リリタアル)、公式サイトはこちら→(http://www.mangost.gr.jp/lilitaal/)残念ながらyoutubeに上がっているのは抜粋だが、後半への盛り上がりがぞっとするくらい綺麗である。ほとんど偏執狂的と言えるほどに(失礼)細かに一本一本引かれた画で紡ぎだされる、少しなじみがありそうでもある異世界の静かな情景。コマーシャリズム重視で所謂アートっぽい作品に厳しいアヌシーの祭典ディレクターも、インタビューの時はこの思わず目を凝らしたく耳を澄ませたくなる職人技の作品に思いのほか好意的だったのが印象的。
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 ところで、アヌシーで丁度次にプログラムされていて、大いに笑った作品がある。ルクセンブルクの監督カルロ・ヴォゲレによる人知れぬ涙(ウナ・フルティーヴァ・ラグリマUna furtiva lagrima)。やはり全編はないので、泣く泣く冒頭近くの抜粋を載せる。

 パセティックな音楽に合わせて魚は買われ、車で運ばれ、台所で塩をふりかけられ、じゅっとバターののったフライパンでこんがり焼かれて皿に盛りつけられる。と、言葉で書くだけならいかにも当然の行く末なのだが、魚釣り男の悲恋の歌を歌うオペラ『愛の妙薬』のアリアの昔の録音に合わせて、魚が実に表情豊かに歌うので、そのあまりの魚離れした悲哀が微笑を、いや爆笑を誘う。ところで、実のところ魚は歌わせようと思って歌ってくれるものではないので、アニメーションという方法をとる。要は一秒24コマだか20コマのぶん、ちょこちょこっと魚の口とか表情、周りの情景やなんかを調整して動かしながら、写真を繋げ合わせるわけ。従って、短編フィルムとはいっても、一秒の間におよそ20回、ポーズをとらせて、シャッターを切って…という繰り返しが行われることになる。アニメって凄い労力がかかるものなのですよね。労力、つまり、時間。実際、この作品の撮影は生魚の腐敗と悪臭との戦いでもあったとのこと、想像したくないけど、ありありと想像出来る話である。
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 であればきっと、あの「鮭」も…いや、鮭のシーズンは比較的寒い時だから大丈夫だったのだろうか、しかし「彼」はみたところ筆が速い方ではなさそうだし…。
 というわけで、本日は「日本一有名な鮭」を観てきたのでした@京都国立近代美術館。公式ホームページはこちら→(海外旅行におすすめクレジットカード【2019年最新版】簡単・安心・便利でお得!旅を快適に!

 シャルダンもびっくり(*1)の構図の斬新さで、鱗のぬめぬめとした生臭い触感やハラミの部分の少し乾燥しかけて見るからにしょっぱそうな赤みは、オランダ17世紀の熟練した画家にも負けない…というか何より題材が、この、おそらく器用に巧い絵が描けるタチではないが生真面目で油絵をこねくり回すのに使命感を持っていつの間にかしょっぱっぽい色合いを醸してしまう画家に、ハマった、ということなのかと見た。主題選びの妙というので選べば、もう一つは豆腐だ。

 これもあぶらげ、焼き豆腐、木綿豆腐の質感の違いを油彩技法を駆使して、多少実験的に描かれているそうなんだが、なにより鑑賞者たる我々の豆腐への愛を刺激するので決して憎めないという罠である。素直に巧い。
 展示は、日本風のポーズに西洋風の陰影のつけられた肖像画や、人物の入った物語画(絵巻のような背景なのに遠近法が若干修正されている)、浮世絵の構図の影響を多分に受けているが印象派とは全く異なる風景画群などから今少し紹介した静物画群まで、この画家の全貌がわかるような工夫がされている。作品として美しくてグッとくるとか巧みで感服する、というものとは少し違うかもしれないが(再三にわたって申し訳ない)、日本への技術としての油彩の導入の様子が伺えてとても面白い。
 そして、常設展で同じころに京都で活躍していた田村宗立の特別コーナーが作られているのが何とも心憎い。公式サイトはこちら→(京の由一 田村宗立 ― 京都洋画の先覚者 | 京都国立近代美術館)この人物も、アンサイクロペディアに記事にしたいくらい面白い経歴なのだが、時代の変わり目の凄く出来るひとってそういうものなのかしらね、独力で静物に影をつけて「写実」することを考えて、英語を学んだり、病院で解剖図描いたりしながら洋画とも日本画とも違うような独自の画風を展開させるという。とりわけ、人物の集団を水墨で諧謔味をにじませて描いた文人画風のと、ドーミエをやんわりとまとめたような油彩のカリカチュアが並んでいたのが面白かった。
 合わせてみると、発見あり!どうぞいらせられませ。
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