昨日載せられなかった写真。金沢ではこんな美味しいものも頂いた。
 二年前にも旅した金沢という街には、なにか愛着がある。桃色と黄緑の晴れやかな友禅、舌の上でそっと溶かす長生殿。犀星に鏡花・・。父が大学時代を過ごした街というので色々聞かされて想像を廻らせていたこともあるだろう。お話の中には、金沢のお嬢さんはピアノでなくてお琴を習わされる、なんていうのもあった。
 いま、自転車を駆って我が物顔に闊歩している京都の町も、いずれ離れる時が来る。出身地でも現住所でもなくなったとき、ゲニウスロキと異様なまでに近しい関係を結んでしまったこの土地を、私はどのように思い出すのだろう。

マリアの空想旅行 (ちくま文庫)

マリアの空想旅行 (ちくま文庫)

京都に行かずして京都のことばかり出てくる森茉莉の妄想京都旅エッセイ。
見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

こちらはカルヴィーノによるマルコ・ポーロのお話。昔、ファンタジーに出てくる旅回りの吟遊詩人に憧れた。海と陸を越えて旅した街をひとつひとつ語っていくマルコ・ポーロは、しかし、唯一つの都市については口を閉ざす。それが彼の故郷であるヴェネツィアだ。語ることと語らずにおくこと。一番自分に近くよく知っていそうなものほど語らずにおくというのはとてもエロティックだと思う。そこでは一種の魔法が生まれて、「語られること」の方を彩る。だから、エンデの『モモ』で、物語つくりのジジの想像力は、モモのために取っておいた最後の物語を公表してしまった時に完全に潰えるのだ。