左はルイ15世が特別に作らせた天文時計。西暦10.000年までの間、わずか40日の誤差で、年月日時分秒を刻み続ける。

 28日、ヴェルサイユ宮殿。一般見学は「etudiante en art(美術系学生)」無料だったので、この際、「国立美術館解説員による有料ガイドツアー」に参加する。
 仕立てのよい少し古風な長めのジャケットにバーバリーのマフラーを合わせた(巻くのではない、上着の襟元とシャツの間の隙間にそっと合わせるのだ)解説員とやらは、いかにも性格の悪そうな申し分のないフランス語でルイ15世16世の私室を案内して下さった。
 鏡の間に代表される公的な部屋と違って一般見学では入ってこられないところは、白い壁にパステルカラーの青とかピンクと金装飾の女性的なロココだ。おまけに、表に出してないお宝がざっくり見られる。これもその方のお話にあったのだけど、ヴェルサイユは革命を通じて中まで乗っ取られたことがないため、家具とか美術品の多くがそのまま残されている。お皿一枚にいたるまで素性の怪しいものはないのだ。一部経済的な困難により人の手に渡り、巡りめぐってフランス政府に買い取られて元の鞘に戻ったものもあるが、「皆さんは革命の起こる前と同じ部屋、同じ調度を前にしていらっしゃるのです。デュ・バリー婦人の宝石箱(?)のように今一時的に別の場所(NYメトロポリタンらしい)にあるものもありますが、そのうち必ず戻ってきます。」
 政治的にはともかく、この王様たち、特にルイ15世の趣味が悪く言われることはフランスではほとんどない。宙に浮きたがっているような軽やかな曲線の椅子に、様々な異なる木材で模様を織り上げた引き出しのついた執務机。
今は電気になってるシャンデリア、昔は五時間毎に紐を使っておろしてろうそくを取り替えていたそうな。革命前夜、3500人の貴族の生活を支えるために11.000人の男の召使と13.000人の女の子の召使がいたるところに住んでいた。今は代わりに部屋ごとに黒服が見張りに立っている。彼らが何人いるのかも訊くべきだったわ。]冷酷な黒い縮れ毛の貴族は間髪入れずに正確な数字をたたき出しその猫なで声で完璧に発音して見せたに違いない。如何せん、このロザリーは彼が居るうちは今が21世紀だということを忘れておりました。[これは修復中の天井画。和紙が張り付いている。